第2回採用作家RuCocoの連載 「あの頃の私が見た風景」(5) 楽園の扉

第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画

採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい
第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい

そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。

・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。

旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。

 

今回はRucocoさんによるテーマ「あの頃の私が見た風景」:(5)楽園の扉

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

成田空港が好きだから

Webチェックインは済んでいる。
あとは荷物を預けるだけだから、そんなに焦って行く必要はない。
けれど、フライトの時間には早すぎる電車のチケットを、つい、買ってしまう。

なぜなら、空港が好きだから。
というより、手続きを終えて飛行機に乗るまでの、旅の高揚感を一秒でも長く味わっていたいから。

世界一不便な国際空港。
そう言われていた時代もあった。
今も、決して便利とは言い難い場所にあるけれど、私が初めて成田を利用した1980年代半ばはまだ、至極アクセスの悪い空港だった。

ドキドキしながら離発着表示板を見上げた頃

日暮里からスカイライナーに乗り、成田空港駅で降りる。
そこからガラガラとトランクを転がして、バス停まで歩く。
やってきた小さなバスに乗り、窓の外を眺めると、周りは畑ばかり。

空港第二ビルが出来る前のこと。
「北ウィング」か「南ウィング」、乗客はどちらかのバス停で降りる。
そうしてようやくチェックインカウンターにたどり着く。

都内のアパートを出てから、かなりの時間が経っていた。
こんな場所にあるのに新「東京」国際空港だなんて、JAROに訴えてもよいのではないかと思ったくらいだ。
けれど、この不便さが、ああ、本当に遠くへ行くのだと思わせてくれたのも、また事実。

団体旅行の係員さんの説明を聞き、搭乗券を受け取ると、あとは飛行機に乗り込むだけ。
海外旅行はおろか飛行機に乗るのも初めてだった私は、ドキドキしながら離発着表示板を見上げる。

今は電光掲示板となってしまったけれど、当時は数字とアルファベットが書かれたボードがめくられ、文字が組み合わされていくタイプものだった。

行き先であるHONOLULUの文字が出来上がると、さらにテンションが上っていく。
しばらくするとまたパラパラと文字が動いて、新しい行き先が次々と表示される。

初めての成田空港の思い出

つかの間の空想旅行。
一番上はDETROIT。北米のカナダに近い都市だ。
LONDON。ブリティッシュ・ロックから洋楽にはまったので、憧れの地だ。
BEIJIN……。

「ベイジンて、どこだろう?」
私の質問に、呆れ顔の友人が答える。

「北京だよ」
(私、ずっと、PEKINGだと思っていた)。

またひとつ、またひとつと組み合わされていく世界中の都市名。
ハワイですら夢を見ている気分だったのだから、それらはすべて、月と同じくらい遥かな地に思えた。

アナウンスの「Attention Please」も、出国審査の長い列さえも新鮮で、その後も私はずっと浮かれたままだった。
未だ忘れられない、初めての成田空港の思い出である。

搭乗前の幸せなひとときを想像したその時から

あれから何度、成田へ足を運んだことだろう。
羽田は近くて便利だけれど、旅に出る時はやはり、成田がいい。

全てはあの空港から始まった。初めて海外へ飛び立った日の興奮が、今も行くたびに甦ってくる。

あの日乗ったボーイング747、JALのジャンボジェット機もすでに引退した。
2011年のラストフライトはホノルル―成田便。かつてホノルルの駐機場には鶴のマークの機体がずらりと並んだという伝説にふさわしい最後だった。

そして、偶然なのか前兆だったのか、あの時、一緒に離発着掲示板を見つめていた友人は、数年後、結婚を機にデトロイトへ旅立って行った。

 

次の旅も、やはり早めの電車で行こう。

第一だったらお寿司の京辰さんで、第二だったら五番街のAVIONで、飛行機を眺めながらお酒を飲もう。

滑走路に下りた旅客機が搭乗口に近づく。
ボーディング・ブリッヂが設置され、楽園へと続く扉が開かれる。

搭乗前の幸せなひとときを想像した瞬間から、既に旅は始まっている。

RuCoco 第2回(Peleliu)で掲載
アメリカに焦がれた20代。アジアに恋した30代。海に魅せられた40代。でも還暦は絶対にハワイで祝うと決めています!
連載記事のテーマは「あの頃の私が見た風景
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第2回タビノコトバ掲載作家のRucocoさんをインタビューした記事

【作家・支援者インタビュー④】Rucocoが語る「旅を文章にすること

【作家・支援者インタビュー④】Rucocoが語る「旅を文章にすること」

【連載作家】
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

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