第2回採用作家RuCocoの連載 「あの頃の私が見た風景」(4) 夜明けのCook-a-doodle-doo

第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画

採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい
第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい

そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。

・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。

旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。

 

今回はRucocoさんによるテーマ「あの頃の私が見た風景」:(4)夜明けのCook-a-doodle-doo

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

私にとって、夜は昼よりも明るく、賑やかなものだった

伊豆急下田駅で叔母が私たちを迎えてくれた時、太陽はまだ高い位置にあった。

下田まで送ってくれた母とはここで別れ、兄と二人、民宿を経営する松崎の親戚の家に、数日間、お世話になる。
子供時代の、夏休みの恒例行事だった。

まだ舗装されていない道も多かったから、松崎までは車でたっぷり二時間はかかった。
そして、ようやく着いた頃には、陽も傾き始めていた。

客室二部屋だけの小さな宿。
使う部屋も限られていたので、夜は叔父、叔母と一緒の部屋で寝ることとなった。
兄はすぐに眠りにつき、兼業で仕事をしていた叔父も叔母も、疲れていたのだろう、電気を消して間もなく寝息をたて始めた。

静かな夜だった。
かすかに虫の声が耳に届くだけで、一切の物音も聞こえない。
私は何度も寝返りを打ちながら眠りが訪れるのを待った。

けれど、どうしても眠れない。
慣れない寝床だからではない。旅の初日の高揚感というものでもない。
静かすぎるのだ。

実家は観光地の繁華街の中心にあった。
一歩外に出れば居酒屋やスナック、ストリップ劇場まであり、昼間は静かだけれど、夜ともなると、相当に騒がしい。

酔っ払いの叫び声や、喧嘩の罵声、スナックから漏れ聞こえるベースのリズム。
カラオケがまだ普及していなかった当時は防音もお粗末なもので、夜毎、ひどい歌声、時には卑猥な言葉を否応なく聞かされていた。

つまり、酔っ払ったおじさんたちの喚き声が、私の子守唄だったわけである。
けれど、それが当たり前となってしまえば何ともない。そんな環境でも、毎日、ぐっすり眠れていた。

私にとって、夜は昼よりも明るく、賑やかなものだったのだ。

旅先で感じた夜の孤独

同じ観光地とはいえ、松崎は南伊豆の小さな街。
人口も商店の数も故郷の街よりずっと少ない。

そこで迎えた初めての夜。
一時間が過ぎ、二時間、三時間経っても一向に眠くならない。

不気味なほど静かな空間。それが、次第に恐ろしく思えてきた。
窓を開けたら、真っ黒な空洞がぽっかりと口を開けて待っているような……。

本当にここは人の世なのだろうか。夜とはこんなにも長く、孤独なものだったのか。

いつもの騒音が懐かしかった。紛れもなく生きている人間が作り出す音が恋しかった。

結局、その夜ようやくまどろんだのは、窓の外がうっすらと明るくなり始めた頃だった。

寝付けない夜に思い出す風景

ところが、寝入って間もなく起こされてしまう。
裏の家のにわとり。これが、文字通り闇を引き裂くような、けたたましい声で時を作ったのだ。
そしてこの雄叫びには、最後まで悩まされることとなる。

結局、寝不足のまま朝を迎えた。
それでも、海を見ると元気になる。
一日中、水と戯れ、遊び疲れたおかげで、その夜からはすぐに熟睡できるようになった。
けれど、夜明けになると、恒例のコケコッコー!
勤勉な雄鶏は、こうして毎日、私を心地よい眠りから引きずり出した。

大人になってからは、夜毎の晩酌のおかげか、どんな環境でも眠れるようになった。
それでも、なかなか寝付けない夜もある。

そんな時、いつもあの松崎の休日を思い出す。

あの頃の松崎の海の透明度は素晴らしく、両手いっぱいのさくら貝をお土産にしたこと。
庭先に現れたミミズが実は蛇の赤ちゃんと知って、飛び上がるほど驚いたこと。
夕暮れ時、叔母が夕飯の準備をしていると、隣の犬が、勝手口からひょっこりと顔を覗かせたこと。
お惣菜の残りのかまぼこやシュウマイを、兄と二人で恐る恐る与えてみたこと。

そして、夜明けの空に響く、あの誇り高き鳴き声。

いつしか瞼の裏に映し出される光景は、懐かしい夏の時間に変わり、私は眠りにつく。

叔父も叔母も鬼籍に入り、松崎は縁遠い地になってしまった。
古き良き昭和の時代に見た、何気ない夏の風景も、遠い記憶の中にしかない。

あの街も変わっただろうか。
それとも、今もまだ静寂の夜が、日々、訪れているのだろうか。

RuCoco 第2回(Peleliu)で掲載
アメリカに焦がれた20代。アジアに恋した30代。海に魅せられた40代。でも還暦は絶対にハワイで祝うと決めています!
連載記事のテーマは「あの頃の私が見た風景
記事一覧へ

第2回タビノコトバ掲載作家のRucocoさんをインタビューした記事

【作家・支援者インタビュー④】Rucocoが語る「旅を文章にすること

【作家・支援者インタビュー④】Rucocoが語る「旅を文章にすること」

【連載作家】
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です