第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画。
「採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい」
「第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい」
そんな思いを込めて、第2回タビノコトバ採用作家による連載企画をスタートさせました。
そして第3回タビノコトバ展を開催するにあたり、第2回の採用作家による連載を一区切りにしようと考えています。
それぞれの作家の作品は、恐らくあと1〜2作品。
ぜひ、楽しんでください!
今回はRucocoさんによるテーマ「あの頃の私が見た風景」:(7)ツナマヨとアヒポキ
<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち」
RuCoco :「あの頃の私が見た風景」
ざっきー:「旅の回想」
Miki:「あちこち旅して考えた」
黒田朋花:「空想旅行記」
連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/
(2) 東京は尚遠く
(3) One dollar forty
(4) 夜明けのCook-a-doodle-doo
(5) 楽園の扉
(6) いつか見た青空
ハワイの名物・アヒポキ
絵の具を混ぜたような色のソースを纏った物体が、白いご飯の上に敷き詰められている。
およそ食べ物とは思えない奇妙な色だ。
ハワイのガイドブックや旅行記を読んでいるとたびたび目にするこのメニュー。
アヒ・ポキというらしい。
アヒ=マグロ
ポキ=切り身
つまり、マグロのお刺身に色んな味付けをしてご飯に乗っけたものである。
気持ち悪い、と写真を一目見て思った。
伊豆育ちの私にとっては、邪道な食べ方としか思えない。ハワイのマグロは美味しい。わざわざ凝った味にしなくても、醤油とわさびだけで十分だ。
ホノルルにあるスーパーやデリでは、たいていこのアヒ・ポキのコーナーがあり、ガラスケースの中には様々な味付けが施されたアヒ・ポキが並んでいる。わさび醤油に次いで人気のスパイシー・アヒはオレンジ色。
普通の醤油味を買おうと並んでいた私の前のカップルも、その前の若い女の子たちも、これを選んでいた。なぜ若者たちは、こんな気味の悪いものを抵抗なく食べられるのだろう。味覚がおかしいのではないかと、眉をひそめた時だった。
ずっと以前、同じようなことがあったことを思い出した。それも、まったく逆の立場で。
アヒポキからリンクしたずっと昔の記憶
あれは大学に入学し、故郷を離れ一人、東京暮らしを初めて間もない頃のことだ。
両親が様子見にアパートへやってきた。当時、まだほとんど料理が出来なかった私は、近くのお弁当屋さんやコンビニで食生活を凌いでいた。その日もセブンイレブンでおにぎりを仕入れ、両親に差し出した。
「これは何?」
母がパッケージに書かれた文字を見て怪訝な顔をする。
「ツナとマヨネーズだよ」
「嫌だ、気持ち悪い」
「どうして。美味しいんだよ。食べてみれば」
「絶対、嫌」
マヨネーズとご飯という組み合わせに、どうしても抵抗があるらしい。今ではお馴染みのツナマヨのお握りもコンビニ自体も、まだ珍しい時代だった。結局、父も母も、ツナマヨおにぎりは口にせず、三個とも私の胃袋に収まることとなった。
ハワイのデリに並びながら、思いもかけず懐かしいエピソードが甦り、頬が緩んだ。そして、自分の順番が来た瞬間、心が決まった。
「わさび醤油とスパイシーをハーフ&ハーフで」
ツナマヨとアヒポキ
ホテルに戻り、テラスの小さなテーブルに買ってきた夕食を並べる。
水平線に落ちていく太陽と刻一刻と色を変えていく空を眺めながらの夕食。これほど贅沢な食事があるだろうか。たとえパン一切れでも、極上のディナーだ。
わさび醤油は当たり前に美味しい。さて、スパイシー・アヒは……。
ごま油の風味に、辛みはチリソースかな。それともハワイのレストランでよく見かけるシラチャ・ソースだろうか。マヨネーズも入っているかな。
うん、不味くはない。いや、意外といける。
初めての場所はいつもドキドキ。初めての体験はいつでも怖い。でもチャレンジしてみなければ何も始まらない。一見、不気味な食べ物も、口にしてみなければ、その味は永遠にわからない。
いつか二人にあの世で会えたら、教えてあげよう。
見た目は悪いけど、スパイシー・アヒは美味しかったよ。
もちろん、ツナマヨのおにぎりだって、とっても美味しいんだよ、と。
アメリカに焦がれた20代。アジアに恋した30代。海に魅せられた40代。でも還暦は絶対にハワイで祝うと決めています!
連載記事のテーマは「あの頃の私が見た風景」
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(2) 東京は尚遠く
(3) One dollar forty
(4) 夜明けのCook-a-doodle-doo
(5) 楽園の扉
(6) いつか見た青空
第2回タビノコトバ掲載作家のRucocoさんをインタビューした記事
【作家・支援者インタビュー④】Rucocoが語る「旅を文章にすること」
【連載作家】
茂木麻予:「旅で出会った人たち」
RuCoco :「あの頃の私が見た風景」
ざっきー:「旅の回想」
Miki:「あちこち旅して考えた」
黒田朋花:「空想旅行記」
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