第2回採用作家ざっきーの連載 「旅の回想」(7) 祖母に贈る言葉

第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画

採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい
第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい

そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。

・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。

旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。

 

今回はざっきーさんによるテーマ「旅の回想」:(7)祖母に送る言葉

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

この日記を、祖母とかけがえのない思い出に贈る。

2月10日

「お婆ちゃん亡くなった。」

母から受け取ったラインを見て一瞬、通勤電車で頭が真っ白になる。
何事もなく実家に帰省し、直接会社へ向かう休み明け。忌引き申請の仕方は?上司への報告は?形式的な疑問が頭を巡る。
ああ、一体自分はこの期に及んでどこまで仕事人間なんだ。

9日後に控えた5年ぶりの祖母との再会は間に合わなかった。この事実が悲しいのか、悔しいのか私には分からない。
祖母の死をもってしても、どこか淡々と客観的な自分が怖い。

2月11日

母とともに祖母の元へ帰省。終始会話はない。こんなにもの静かなフライトは人生初めてだ。

母にかける言葉が見当たらない。祖母の他界から数日前、母は一足先に祖母を見舞いに帰省していた。その際、9人いる孫のうち全くもって会えていない私のことを、祖母は痛く心配していたらしい。

「ばあちゃん絶対元気になって、あんたの娘に会いにいくからな。」

そう力強く宣言した祖母に対して「絶対に〇〇をここに連れて来ます。」母はそう返した。

穏やかな表情で深い眠りに落ちた祖母を前に、「お母ちゃん、約束通り〇〇を連れて来たで。なんで目開けへんねん。」と母は泣き崩れた。
その光景をもってしても、私はやっぱり冷静だ。

親戚が徐々に集う。自ずと祖母との思い出話に花が咲く。かく言う私は祖母との思い出に乏しい。当然だ。みんなの話についていけない。1人だけ疎外感だ。こんなことなら仕事をしている方がましだ。早く都内に帰りたい。

2月18日

翌日のフライトの最終確認をして、スーツケースに洋服を詰め込む。本当だったら、二泊三日の小旅行を兼ねて祖母に会いに行く旅のはずだった。

スーツケースにぼたぼた涙が溢れる。そうだ、私は悲しかったんだ。
母からラインを受け取った時も、次の日母と帰省した時も、私はうんと悲しかったんだ。

「お婆ちゃんには生きていて欲しかった。」

その一言を素直に言えなかったのは、祖母の死を受け入れられない自分の弱さだと気付いた。

母と同じくらい、祖母は私が学業や仕事にひたむきになることを心から応援してくれた。多くの親戚が「女性の幸せは結婚と子育て」と考える中で、祖母は私の男勝りな性格をいつも肯定してくれた。

5年ぶりに再会したら私は話したかった。
社会人としての頑張りを祖母に報告したかった。入社式で新入社員代表に選ばれたこと、CS表彰式でスピーチをしたこと、次年度の新卒採用ページに載ること、大学卒業後も相変わらず男勝りな性格で仕事に生きていること。
そう生きたくても生きることのできなかった戦争体験者の祖母は、きっとずっと私の話を優しい眼で聞いてくれただろう。でももうそれは叶わない。

「お婆ちゃん、ずっと会いに行けなくてごめん。」

2月19日—21日

泣きじゃくった昨夜が嘘みたいに、目が覚めたら心の底からワクワクする。
祖母が喜んでる。根拠はないけど、そんな気がする。心がそう感じる。

フライトで手に取った機内誌に、梅は別名「春告草」と言うことが述べられている。春の訪れを待ち開花するのではなく、梅の開花が春を呼び込むと考えられている由縁らしい。なんて素敵な花なんだろう。そうだ梅を見に行こう。祖母もきっと喜ぶ。

銀閣寺へ向かう道中には、哲学の道というものがある。奥深い。少し遠回りだがせっかくだから歩いてみる。「人はなぜ死ぬのか。」そんなことを考えながら歩いていたら、だんだん笑えてくる。真っ当な答えなど、自然の摂理以外ないからだ。近くのカフェで一息つく。帰りはもう少しマシな問いかけをしよう。

夕暮れの清水寺。訪れる人を迎える見事な梅。夕日に照らされる人の影。蘇る幼少期の記憶。

ひたすら歩みを進める。心の大切なところで覚えているどこか懐かしいあの風景。左に母、真ん中に私、右に祖母、3人手を繋いで歩いた清水寺。祖母との思い出は確かにここにある。変わらず私の心の中にあった。

帰りのフライト、関西圏の広大な夜景を見下ろしながら、私は丁度一ヶ月前に訪れた米子の旅に想いを馳せていた。

(To be continued)

ざっきー
第2回(Life)で掲載
橋が好き。
連載記事のテーマは「旅の回想
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連載作家の作品が掲載されたタビノコトバ

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

過去の採用作家による連載

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

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