第2回採用作家ざっきーの連載 「旅の回想」(6) タイムトラベル

第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画

採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい
第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい

そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。

・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。

旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。

 

今回はざっきーさんによるテーマ「旅の回想」:(6)タイムトラベル

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

1年越しに同じ橋を眺めて

大学4年時に四国から瀬戸大橋を眺める旅をした。
社会人1年目になった今、わたしは本州から瀬戸大橋を眺めている。

はたして橋は、一体何の架け橋なのだろう。
場所、距離、時間、それとも記憶…。

そんなことをぼんやり考えながら目を閉じると、岡山を巡る旅で倉敷から夕日に照らされた瀬戸大橋とその先に広がる四国をただ静かに見つめた社会人一年目の自分と、四国を巡る旅で坂出から瀬戸大橋とその先に続く本州を眺めた大学四年生の自分の視線が合った気がした。

大学4年の私と社会人1年の私が瀬戸大橋で出会った気がした

大学4年

「いつかこんな風に出会えると思ってた。」
「これは現実?」

社会人1年目

大学4年

「タイムトラベル的な」
「なるほど」

社会人1年目

大学4年

「岡山の旅はどうだった?」
「後楽園で出会ったガイドボランティアの方のお話がとても印象的だった。戦時中、B –29の一機がこの辺りに墜落した際、この土地の人々は敵味方関係なく米兵を弔ったというお話。」

社会人1年目

大学4年

「戦争体験者から生きたお話を伺えるのは、本当に貴重な経験だよね。」
「四国は満喫できたの?」

社会人1年目

大学4年

「高松駅には、観光PR大使として親切な青おにくんがニコニコ笑顔で出迎えてくれたよ。」
「赤おにくんを助けた後、旅に出て香川に辿り着いたんだね。昔から本が好きだったもんね。小さい頃よく絵本を読んでいたことを思い出すよ。」

社会人1年目

大学4年

「社会人になった今も本は読んでるの?」
「学生時代よりはるかに読書量は減ったよ。でも意識的に読むようにしてる。好きな本のジャンルも年齢と共に変わっていったなぁ。それこそ中学生の頃はファンタジーが好きだったし、高校生や大学生の頃は海外文学に夢中だったよね。」

社会人1年目

大学4年

「専攻がドイツ文学だったからね。英文学の方が好きだったけど笑」
「大人になった今は、専らエッセイや詩が好きなんだよね。」

社会人1年目

大学4年

「変わったものと言えば、旅のスタイルはどう?」
「大きく変わったと思う。一人旅が好きな気持ちに変わりはないけど、学生の頃は、旅に勢いがあったと思う。」

社会人1年目

大学4年

「勢い?」
「そう、勢い。スケジュールの組み方ひとつ取っても、分単位で旅の予定を組んでたよね。往復の乗り物の時間や移動時間さえ念入りに計画して、予め決めた通りに旅をする計画性と、それをその通りにこなす体力があった。」

社会人1年目

大学4年

「社会人になったら違うの?」
「時間の捉え方が変わったと思う。」

社会人1年目

大学4年

「一分一秒も無駄にしたくないって思いで、せかせか旅をしてたよ。」
「でしょ。社会人はその逆。日常の忙しない仕事から離れて、ほっと一息つきたくて旅に出てる感じ。事前に計画も立てなくなったし、行き当たりばったりで気ままに旅をして、疲れたらホテルのロビーで読書して過ごすこともあるよ。」

社会人1年目

大学4年

「ええー!勿体無い。せっかく旅に出てるのに。」
「ね。それとお金の使い方に余裕が出たかな。」

社会人1年目

大学4年

「昔から浪費癖のきらいがあったもんね。」
「おー。それこそ宿泊費にお金を割いたり、両親への旅土産を奮発したり。経済的な余裕がある社会人の醍醐味だと思う。」

社会人1年目

大学4年

「羨ましい限りだわ。いかに素泊まりでお手頃な宿泊地を探せるかに注力してたのに笑」
「瀬戸大橋はなんで足を運んだの?」

社会人1年目

大学4年

「就活が終わって春から一人暮らしをすることが決まって、これから大丈夫かなって不安だった。橋って佇まいが壮大だし、常に未来を見てる気がして、そう言う前向きな力強さが好きなんだよね。それに瀬戸大橋の立案者である大久保じん之丞は、当時香川用水の計画を提唱した際に、色んな人に笑われたんだって。できっこないと。だけど彼は『笑わしゃんすな百早年先は財田の山から川舟出して月の世界へ往来する』って言い返した。それからたった百年後、人類は宇宙までのエレベーター建設を構想したり、火星移住計画を立てたり、まだまだ宇宙の全ては分からないけど、彼の先見の明に感銘を受けて、瀬戸大橋は別格で好きなんだよね。」
「…熱弁をありがとう」

社会人1年目

大学4年

「そう言いながらも、また瀬戸大橋に帰ってきたじゃん」
「岡山の旅は、社会人生活が始まって早一年が経とうとしてた頃に出た旅だったからさ、なんだかんだ元気でやってるよって伝えたかったんだよね。」

社会人1年目

大学4年

「自分の選択を後悔したことはある?」
「もしあの時、他の選択肢を選んでいたら、今自分はどんな風になってたかなって考えることはある。でも人間は取捨選択して自分の人生を生きていく他ないし、その時は自分の思い描いていた通りの結果じゃないことも、いつか最良の選択だったと思える出来事に必ず繋がってると思う。」

社会人1年目

大学4年

「確かに。第一志望の高校受験に失敗して、滑り止めの私立高校に通ったけど、その高校の北米研修プログラムのホームステイで大きく人生が変わったよね。飛行機は好きになるわ、海外に関心を持つわ、何より旅好きになる原点だった。」
「それにその高校に通わなければ、今の仕事には就いてなかった。」

社会人1年目

大学4年

「この先も旅は続けてるのかな?」
「きっと社会人二年目もそれ以降も懲りずに続けてるよ。」

社会人1年目

大学4年

「相変わらず私は私のままで安心した。社会人生活頑張ってね。」
「ありがとう。社会人になったら自由に使える時間が圧倒的に減るから、残りの学生生活を謳歌してね。」

社会人1年目

「さようなら」

はっと目が覚めた。社会人二年目、相変わらず沢山旅に出たよ、心の中でクスッと笑いながら、私は今次なる旅を計画している。

ざっきー
第2回(Life)で掲載
橋が好き。
連載記事のテーマは「旅の回想
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連載作家の作品が掲載されたタビノコトバ

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

過去の採用作家による連載

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

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