第2回採用作家ざっきーの連載 「旅の回想」(3) 会者定離

第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画

採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい
第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい

そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。

・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。

旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。

 

今回はざっきーさんによるテーマ「旅の回想」:(3)会者定離

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

旅に出る際のマイルール

「見知らぬ人10人に話しかけ、一緒に写真を撮ってもらう」

私が旅に出る際の鉄則だ。
日常生活を離れ、知らない街に赴く。当然その街も私のことを知らない。だからこそいつもより心が軽くなり自分に自信が持てる。

このルールのもと様々な方と交流をしていく中で、どうやら私はおじいちゃんと仲良くなるのが得意だということに気が付いた。

「はい!これあげる!」

大学三年生のとき訪れた錦帯橋。
透き通る川のせせらぎ音を聞きながら、秋の麗らかな日差しのもと、半年後に迫る就職活動のことを考えながら物思いに耽っていた私は、ふと聞こえた呼びかけに慌てて我に返る。

声の主の方を振り返ると70代のおじいちゃんが、私に錦帯橋のガイドブックを差し出していた。

「え、あ、ありがとうございます。」

状況が掴めぬままそのガイドブックを受け取る私に、おじいちゃんは構うことなく会話を続ける。

「どこから来たんだい?」

社交的なおじいちゃんと打ち解けるのなんて一瞬だった。

初めて会ったおじいちゃんの夢

橋が好きで一泊二日の旅の最終日に錦帯橋を訪れたこと、
昨日は広島の観光を一人で楽しんだこと、
半年後に始まる就職活動に漠然と不安を覚えていること、
出会ってから5分も経っていない見知らぬおじいちゃんに身の上を明かした。

「私はね、ずっとこの地で育ってきて、この錦帯橋を世界遺産にすることが夢なんだ。」

そう言ったおじいちゃんの目は誰よりも輝いていた。

「世界遺産にする夢、頑張って下さい!」

去っていくおじいちゃんの小さくなる後ろ姿に向かって思わず叫んだ。

だけどおじいちゃんは決して振り返ることなく、右手を軽く挙げただけだった。
その雄姿は、そう遠くはない未来に錦帯橋が世界遺産になることを物語っていた。

いつかきっと私も

これまでの旅の思い出を振り返ると、それぞれにおじいちゃん達との交流がある。

黒部のトロッコ列車の途中下車駅で出会ったおじいちゃん。
ダム放流の責任者だった。

栗林公園で出会ったカメラブラザーズ。
そのうちの一人のおじいちゃんがくれた自慢の一枚は私の宝物。

後楽園で戦時中の貴重なお話をきかせてくださったガイドボランティアのおじいちゃん。
上京したお孫さん、たまには会いに来てくれるといいね。

高知でふらっと立ち寄った本屋さんのおじいちゃん店主。
旅土産にくれた何十枚のポストカード全部使い切ったよ。

函館で美味しい蟹を選んでくれたおじいちゃん、
両親とっても喜んでいました。

 

数え切れない出逢いと別れを繰り返す人生の中で、毎日顔を合わす知り合いよりも、恐らくたった一度きりしか会うことのない人との縁が、人生に彩りと感動をもたらしてくれることもある。

第一声を交わした時から次に会うことはないと知りつつ、「だけどひょっとしたらどこかで会えるかもしれない」と、再会の可能性を期待するもどかしさを心にそっとしまいながら、また旅を続け出逢いと別れを繰り返す。
きっと旅の醍醐味はそこにある。

 

自分自身の生き方や考え方で、誰かに光を与えられるってなんて素敵なのだろう。

いつか私もおばあちゃんになった時、これから沢山の可能性に包まれている若者に、「このおばあちゃんなかなか面白いこと言うね」と思ってもらえるような、そんな素敵な歳の取り方をしたい。

ざっきー
第2回(Life)で掲載
橋が好き。
連載記事のテーマは「旅の回想
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連載作家の作品が掲載されたタビノコトバ

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

過去の採用作家による連載

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

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