第2回タビノコトバの募集がいよいよ始まります。
今回は《文章部門》に加えて《写真部門》も併設しました。
たくさんのご応募をお待ちしています。
タビノコトバでは以下のようなエッセイ作品に加え、詩や手紙をお待ちしています。
旅する本から世界を想像する
本を読むことが好きだ。
僕が長い旅に出ようと思いたった背景には、本の存在がある。
星野道夫、石川直樹、藤代冥砂、近藤篤、小林紀晴。
どういうわけか、写真家が旅について書いた文章を読むことが好きだった。
旅と本は相性がよい。
休日に自宅で本を読む。
登場人物と自分を重ね合わせながら、ここではないどこかへと旅をする姿を想像する。
まるで、重いバックパックを背負いながら、異国の街を自分の足で歩いているかのように、ただの休日が特別な休日へと変わっていく。
誰かの旅が、いつかの自分の旅へとリンクする瞬間が、確かにある。
線が引かれた「1984年」との出会い
2010年、1年半をかけて世界各国を巡っていたときのこと。
当時はまだ電子書籍がほとんど流通していない時代で、とにかく日本語の文章に渇望していた。
揺れるバスの中、小汚いゲストハウスのベッドの上、目の前に海が見えるテラス。
出発前に散々吟味した2冊の文庫本は、異国を旅する僕に安心感を与え、次の目的地へと導いてくれた。
長い旅を続けていると、やはり異なる本を読みたくなる。
旅先で出会った旅行者同士で読み終わった本を交換することは、よくあることだ。
日本で吟味して選んだ本を、別の旅人が持っていた本と交換する。
僕たちは新しい本を手に入れ、新しい文字を読み、新しい知識を得る。
世界各地でそのサイクルは繰り返されている。
つまりは、旅行者と同じように、本も旅をしているわけだ。
2010年10月。
ハンガリーのブダペスト、トルコのイスタンブール以来これが3度目の再会となるモミ君と、ヨルダンのアンマンで1冊の本を交換した。
僕は他の旅人からもらって読み終わっていた本を渡し、モミ君からはジョージ・オーウェルの「1984年」をもらった。
本をパラパラとめくると、文字にはところどころ線が引いてあった。
「モミ君、この文章のどこに惹かれたのかなあ」
そんなことをぼんやりと考えながら、アンマンの薄暗い部屋のベッドの上で、静かに本を読んだ。
ガラパゴスで、「1984年」ふたたび
月日が流れ、ケニアだったかモロッコだったか忘れてしまったが、僕はジョージ・オーウェルの「1984年」を別の旅人に渡し、代わりに新しい本を手に入れた。
いつもの流れで、なんとなく、当たり前のように本を交換した。
2011年5月、僕はガラパゴス諸島のイザベラ島にいた。
数人の仲間と宿の部屋をシェアしながら、一緒にガラパゴス各地を旅した。
丘を登れば人と同程度の大きさに育った野生のカメが森の中で生息していたり、海に入るとアシカが遊びに寄ってきてくれる、そんな不思議な島々だった。
ガラパゴスの旅が終盤に入り、ベッドの上で休憩していたときのこと。
ふと、横を見ると、同じ部屋で宿泊していたシンジ君が、数冊の本を広げていた。
その中に「1984年」があった。なにかゾワゾワとした感覚があった。
「以前にモミ君と1984年を交換したんだよね」
僕は、気になってシンジ君にそう伝えた。
シンジ君もトルコでモミ君と出会っていて、偶然にも数日前にモミ君の話を二人でしたばかりだった。
旅で出会った仲間のネットワークは、意外と狭い。
出会った人に共通の友人がいることなんて、全く珍しいことではなかった。
「あ、そうなんだ。ちなみにこの1984年にはかなり線が引いてあるよ」
え?線? 耳を疑った。
同時に「やはり」という確信があった。
ジョージ・オーウェルの「1984年」にたくさんの線が引いてある、そんな偶然がそうそうあるはずがない。
パラパラと本をめくりながら、驚いて声を失った。
それは紛れもなく7ヶ月前に自分が共に旅をしていた本だった。
この本はモミ君から僕へ、そして他の誰かへ、そんなことを繰り返しながら現在ガラパゴス諸島でシンジ君の手の中にある。
7ヶ月間、いや、もっと長い間、誰かのバックパックの中で、あのうだるように暑い中東やアフリカの大地を巡り、大西洋を渡って南米にやってきて、そしてガラパゴス諸島まで旅してきたのである。
想像する贅沢を感じること
このタイミングでこの場所にいなかったら、出会うことがなかっただろうと思うことがある。
それは、今後ずっと付き合っていく人との出会いなのかもしれないし、そこに行きさえすればなにか幸せな気持ちになれる場所との出会いなのかもしれない。
驚き溢れる景色や、人生を前向きにさせてくれる本や音楽と出会うことも旅先では珍しくない。
普段は何気なく通り過ぎていく出会いが、旅の間はより鮮明で印象的になる。
5年経った今でも、目をつぶれば時々あの旅での出会いを思い出し、ふっと力が抜ける。
「旅は至高の出会い系だ」と言っていた旅人がいた。
あの人、今どこでなにをしているのかな。
あの本、今は誰と旅を続けているのだろう。
あの場所は、今日も変わらずいつもの仲間が集まっているのかな。
出会ったことで、想像することができる。そしてまた、バックパックを背負って会いに行くことができる。僕はまた、会いに行きたい。
今も「1984年」は世界のどこかを旅しているのだろうか。
そうであってほしい。
そんなことを、今日もふと考えるのだ。
タビノコトバをお待ちしています
タビノコトバでは応募して頂いた作品から1冊の冊子を作成・展示会を開催します。
2018年7月25日まで文章作品・写真作品をお待ちしています。
青木薫さんが描いた募集のポスターはコチラをご覧ください。
詳しくは4月末に公開される募集要項をご覧ください。
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