第2回採用作家Mikiの連載 「あちこち旅して考えた」(4) キルギス、キューバ、東京、それぞれの地で

第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画

採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい
第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい

そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。

・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。

旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。

 

今回はMikiさんによるテーマ「あちこち旅して考えた」:(4)キルギス、キューバ、東京、それぞれの地で

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

私が次に行きたい旅先

昨年の今頃、こうして連載させてもらうきっかけとなったタビノコトバの冊子が完成し、鎌倉で展示が行われた。
その冊子の作者紹介欄で、私が次に行きたい旅先としてあげたのが、キルギス・ジョージア・キューバだった。

わたしの行きたい場所リストは常に渋滞中で、行き先の優先順位などあるようでないものなのだが、縁あって(航空券がたまたま安く買えたとも言う)キルギスにもキューバにも訪れることができた

中国のカシュガルからキルギスのイルケシュタムへ

キルギスは中央アジアの山岳地帯に位置する海のない国で、カザフスタン、中国、タジキスタン、ウズベキスタンと国境を接している。

この旅では、中国のカシュガルという街からキルギスのイルケシュタムという街へ陸路で入国した。

国境地帯は荒れ地の山といった様子で、どんよりした曇り空だったこともあり寒々しい雰囲気。頻繁にあるパスポートチェックと身体検査。
しかもその都度時間がかかるので、一体どこが国境なのか、いつ出国手続きが行われるのかがよく分からず、やきもきもした。

いくらかうんざりもしたけれど、旅人達で乗り合わせたバンの中は和やかな雰囲気だった。

中国側の最終関門でナンをくわえた野良犬と迷彩服の男性達に見送られ、とぼとぼと歩きながらキルギスへ入国したのはすでに日暮れの時間だった。
その後真っ暗な雪道の中をバンは疾走し、サリタシュという街に着いたのは日付が変わる頃で、結局国境越えは丸一日がかりだった。

翌日からはほとんど毎日、街から街へと移動した。

車中や宿を共にする旅行者との会話、車窓から次々と流れてゆく景色に旅の良さを味わった。

そして、ナンにたっぷりのチャイ、ラグマン、サムサ、シャシリク…楽しみにしていたご飯のおいしかったこと。

キルギスの旅と星野道夫

でも思いがけない一番の収穫は、星野道夫との出会いだった。

出発前、空港の書店で「旅をする木」を購入したのだ。目にした瞬間自然と手が伸びたのは、友人から星野道夫について話を聞いて以来気になっていたからだ。

少しずつ読み進める度に、自分とは何もかも違う遠く離れた場所にいる人だと思っていた星野さん言葉がこんなにも馴染むものかと驚いた。
どんどん引き込まれ、もっと早く出会いたかったなあ、と悔やんだりもした。

本の中にある想像もしていなかった静かで優しい言葉の世界に。
想像も及ばないようなアラスカの厳しく美しい自然に。

 

もう一冊、並行して読んだのは伊坂幸太郎の「サブマリン」。

言葉のセンスやユーモアにベッドに、横たわってくすくすと笑い、人へのあたたかい眼差しにじんわり目頭を熱くした。

日本を離れキルギスを旅する現実、そこから時々抜け出してアラスカの世界を生き、伊坂幸太郎ワールドを生きた。

本があれば、旅をしながらまた別の旅ができるのだから面白い
と思うと、本の分だけ荷物が重くなるのも仕方ない。

東京で想像するクジラ

不思議な時間の中にいた旅も終わりが迫っていた成田目前の機内。
そこで、私のいぬ間に日本で流れていた時間にはたと気が付き、我に返った。

着陸前に新しい時代の安穏を祈るようなアナウンスが流れたのだ。

元号が新しくなったこと、姪が誕生したこと、いつもの仕事…わずか10日間離れていただけなのに、私を取り巻いているはずの日本の現実に現実味がもてなかった。
その違和感と旅の間何者でもなかった自分は、日常にまみれてあっという間に消えていった。

 

帰国してからしばらくは、「旅をする木」をお守りのように持ち歩いた
朝の通勤電車で、アラスカの海で悠々と潮を吹くクジラを想像してみると、ささくれ立っている心が落ち着いた。

普段の生活の中で、キルギスや中央アジアの国々の様子は自然とは入ってこないし、情報も多くない。
旅の途中はいくら濃密な関係であったとしても、日本からはやはり遠い世界だ。

それでも、鞄のなかにすっぽり収まった星野さんが教えてくれる。

私が電車から一歩足を外に踏み出した今この瞬間、アラスカのクジラにはクジラの時間が流れ、キルギスのあの街のあの宿を営む人たちはちょうど目覚めた頃で、キューバで私の髪を切ったお姉さんは夕飯の準備をしている頃かもしれない。

出会った旅人達も同じようにどこかしらで生活し、今もたくさんの出会うことのない人々が世界を旅しているのだろう、と。

それだけじゃない、ありとあらゆる数え切れないストーリーがパラレルワールドのように存在して、同時進行している。
私には見えない、お互いに見えないそれぞれの世界。

そんなことを想像すると、体がふわっと軽くなり、力強く歩き出せる。

そして、すれ違う人々と言葉を交わすミラクル、出会いの不思議が浮かび上がってくる。

陳腐な言葉でしか語れないけれど、そんなことを一瞬でも誰かと共有したくて、こんなふうに文章を書いている。

Miki
第2回(Atacama)で掲載
旅先で好きなのは、朝。特技は、乗り物酔い。
連載記事のテーマは「あちこち旅して考えた
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連載作家の作品が掲載されたタビノコトバ

連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/

過去の採用作家による連載

<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち
RuCoco :「あの頃の私が見た風景
ざっきー:「旅の回想
Miki:「あちこち旅して考えた
黒田朋花:「空想旅行記

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