第1回・第2回タビノコトバで採用された作家による旅の連載エッセイ企画。
「採用作家が継続してアウトプットできる場を作りたい」
「第3回の応募者に、採用されればこんなことが起こると未来を想像してほしい」
そんな思いを込めて、連載企画をスタートさせました。
・これまでのタビノコトバを読み、この人の作品をもっと読んでみたいと思っていた人。
・第3回があれば応募してみたいと思っていた人。
・旅の文章が好きな人。
旅の文章を応募し採用された作家による書き下ろし作品を公開します。
今回はMikiさんによるテーマ「あちこち旅して考えた」:(3)フィルターとベクトルの話
<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち」
RuCoco :「あの頃の私が見た風景」
ざっきー:「旅の回想」
Miki:「あちこち旅して考えた」
黒田朋花:「空想旅行記」
連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/
Contents
旅のこだわりやスタイルは人それぞれ
旅には、多かれ少なかれその人なりのこだわりやスタイルがある。
興味や行動のベクトルはみんな違って、だから旅の話を聞くのも、誰かと一緒に旅をするのも面白い。
ひとりで旅行するのも好きだ。
「ひとりが好きなんでしょう」と思われることが多いけれど、そういうわけでもない。
バックパッカーに憧れながら夢見るばかりの私に、行きたい場所にひとりでずんずん出かける意思をもつきっかけをくれたのが、初めての海外旅行だ。
ホーチミンを経由してシェムリアップへ
私は友人たちと4人でアンコール遺跡群を訪れた。
私達が選んだのは、空港の送迎やホテル、遺跡巡りのガイド、いくつかの観光がセットになっているプランだった。
最大の目的にしていたであろうアンコールワットはもちろん素晴らしかった。
かんかん照りの草原を吹き抜ける風、空いっぱいに広がる夕焼け、雨上がりの空にかかる虹、自然の美しさは世界共通だ。
そんな中で私の心は、人々の普通の暮らしや話している言葉、食べているもの、使っているもの、着ているものなど、何か生活に根付いたものの方に引き寄せられていた。
特別なスキルや知識をもたなくても、街を歩いたり人と触れ合ったりしながら、その場所を私なりに感じに行くんだ。
後にそう思うようになった原点は、日本を出て初めて降り立った街、ホーチミンにあるのかもしれない。
心はたしかに浮き立っていた。
でも今思えば、おなかの前で抱えるようにして持つショルダーバッグを握る手に力が入り、周りの人々に必要以上の警戒心をもっていたように思う。
旅で感じた許容範囲の違い
印象に残っているのはいくつかの場面。
まず市場で。
雑然と積まれているたくさんの食材のにおいと熱気。それらが混じり合って充満している。率直に言って、臭い。臭いものは臭いのだから、そう言うのは仕方がないのだけれど、友人の眉をひそめるような言い方に少し引っかかっていた。
そして、食事。
食べてみたいなあ、気さくな雰囲気のお店だなと興味をもった時に、「おなかを壊しそう」「人が少ないけど大丈夫かな」などと聞こえてくると、なんだかしょぼんとした。
小ぎれいなレストランに足を向けないわけじゃないし、おしゃれなカフェで寛ぐのも好きだけれど、私が思い描いていた旅とは何かが少し違った。
そして、あらゆるもののクオリティについて。
道路や水道などの公共インフラ、ホテルの設備、店の人の接客や態度、ごはんの味、清潔さなどあげればきりがない。様々な場面で見る友人達の反応に少なからず拒絶のようなものが含まれている気がした。
人によって許容範囲や優先順位が全然違うこと、それが浮き彫りになるのを身をもって感じた。
旅を通して得た気づき
何しろみんな、初めての地におっかなびっくりだったのだ。だから不安も疑念も仕方ない。
それでも、「こんなにも違うんだなあ」「このおおらかさがいいなあ」「少しくらい(高くたって、適当だって、汚れてたって)、まあいっか」などと、のほほんと受け入れている自分がいた。
せっかくここまで来たのだからという強がりな思いも、私なりにもっていた不安や緊張を中和させていたのかもしれない。
私だってできれば、汚いよりきれいの方が、熱いお湯がたっぷり出た方が、ぶっきらぼうより愛想のよいほうが、いい。でもそうもいかないところに、面白さや発見がある。
私はそんな思いを伝えることができず、漠然とした違和感を胸の内にひめて帰国した。
その街に、人に、一歩踏み込んでみる勇気がなかった。そういう思いがきっと、今の旅につながっている。
それぞれが持っているフィルター
自分の物事の見方や感じ方、価値観は、自分にかかっているフィルターだと聞いて納得したことがある。
人はそれぞれ持っているフィルターが違う、そのことをついつい忘れてしまうから、相手を受け入れられなかったり反発したりしてしまう。
当時はこうして言葉にできなかったけれど、違うフィルターをもつ友人達と一緒だったからこそ、自分の興味のベクトルを意識できたのだ。
今、ホーチミンに行ったらどんなふうに感じるのだろう。
あの時行った市場も歩いた通りももう思い出せないけれど、もう一度見てみたいなあ。
なんて思いを馳せながら、次の行き先についてあれこれ考えている。
連載作家の作品が掲載されたタビノコトバ
連載作家の作品が掲載されたタビノコトバは、こちらから購入できます。
https://tabinokotoba.stores.jp/
<連載作家>
茂木麻予:「旅で出会った人たち」
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Miki:「あちこち旅して考えた」
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[…] たいした理由もなく旅に出る (2) 致命的弱点の話 (3) フィルターとベクトルの話 (4) […]
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