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第1回タビノコトバ掲載作家のインタビュー① 茂木麻予さん
第1回タビノコトバに掲載された作家にインタビューし、旅を文章にすることについて語ってもらう企画の第1弾。
その最初を飾るのは、「Message」と「One percent」の2つの作品が掲載された茂木麻予さん。
ニューヨーク在住の茂木さんは、タビノコトバ展を見るために来日し、イベントに参加してくれた。
どうして旅を文章にするのか、ニューヨーク在住の茂木さんが展示会に足を運んだ理由、タビノコトバについて話を伺った。
制限もなく、商業的な目的もなく、自由に募集していたから
ーそもそも、タビノコトバをどうやって知ったんですか?
インターネットの公募サイト「登竜門」を通じてですね。もともと文章が好きで作品を書いていて、送る先を探していたんです。いろいろなコンテストを探していると、テーマが商業的なものであったり地域に根ざしているものなど制限が多いものばかりだった。その中でタビノコトバは制限もなく、商業的な目的もなく、自由に募集しているところだったからここに応募しようと決めました。
ー茂木さんは応募した二つの作品が採用されました。その二つの作品のエピソードを教えてください。
【Message】のほうは、旅をテーマにしたというよりは、「偶然の出会い」「予期せぬ巡り合わせ」みたいなことをテーマに、自分の経験から書きましたね。自分が思っていた方向とは全然違うところに展開していった経験で、それが印象に残っていたので書きました。
【One percent】のほうは、ハルビンが舞台でした。仕事で赴任することになり、旅をするという目的で行ったものではなかったけれど、現地の人と友達になって、そこで物語ができた。一般的な旅行とか旅のイメージとはちがう旅の捉え方として書きたいなと思って書きました。こういうところに行ったんだぞとかいうことではなくて、場所とか国は違っても人間の不変性というか、そういうものはどこに行っても同じなんだなってことを異国で感じたから、そういうことを書きたかったですね。
ー茂木さんの作品は、なにか特別なことが起こったわけではなく、小さな出来事なんだけど、それを茂木さんの視点で捉えて、それが特別な出会いや旅になっているのが印象的でした。
この冊子全体を通して他の作家さんの作品もそうでしたよね。
書くことによって、なにが残っていたのかを自分できちんと納得できた
ー文章を書くことで自分の旅を振り返ったかと思うのですが、書くことで旅の出会いについて、なにか感じることとかありましたか?
書き始めるまではなんとなくその出来事が心のどこかに残っていたんですけど、なんでそれが残っているのか、なにが残っているのかを深く考えたことがなかったんですよね。書くことによって、なんでそれが引っかかっていたのかを自分できちんと納得できたっていうのはありますね。
ー書いてる時の苦労や、楽しみはありました?
最初に書いているときは、考えながら書いてるんです。どうしてそれが引っかかったのかっていうのを自分で理解するのに、時間と手間がかかりました。
なにか言いたいんだけど、なんて言っていいかわからないところを一生懸命こうかな、ああかなって、いろいろな方向から同じ点を掘り下げていくんですね。自分でもよくわかっていないことを掘り下げる作業が苦しいんだけど、楽しかったですね。産みの苦しみというか。
ー僕らは応募者に対して「タビノコトバを綴ることで、いつしかその旅は特別な旅になる」というテーマを投げかけています。茂木さんには応募者に感じてほしいことを実現してくれている感覚がありますね。実際に書き始めてから、書き上がった時はこれだ!って感覚になりました?
確か締め切りギリギリに出したと思うんです。とにかく自分でもうこれ以上は書き直せないって思うまで、本当に繰り返し繰り返し書き直したんですよね。はじめから読んで、また変えて、最初に戻って、また変えて・・・多分10回以上手直ししたと思う。それで、もうこれ以上は無理!って思って提出しました(笑)
なので書き上がったときは、これでダメなら仕方ないよねって感じの清々しい気持ちになれましたね。
ニューヨークから展示会に駆けつけてくれた理由
ー茂木さんはニューヨーク在住ですが、わざわざこのために帰国し、展示会を見に来てくれました。その動機やエネルギーの背景はどこからきているんですか?
タビノコトバの募集は商業的な背景が一切なく、大らかで自由で、旅を好きな人たちが情熱を抑えきれなくて始めた公募ですっていうイメージが強くて、きっとそこに行けば、こういう人たちに出会えるんじゃないかっていう期待があったんですよね。この企画を立ち上げたスタッフの皆さんに会ってみたかったし、他の作家の方たちもきっと同じような感じ方をされるような人たちなんじゃないかって思って、すごく純粋に好きなことを分かちあえる人たちなんじゃないかと。そういう仲間に出会いたいという気持ちで、もう絶対行きますって感じでした。
ー素敵すぎます(笑) 実際来てみてどうでした?
イメージした通りで、楽しくて、まっすぐで、純粋で。みなさんで話していた時も、作品の最後の箇所はどうしてこういう終わり方にしたの?自分ならこうしなかったけど、どうして?とか、同じように書くにあたっての苦しみを味わった人たちのそういう深い会話ができるたのが楽しかったですね。実りある懇親会でした。
「タビノコトバ」という映画のパンフレットみたいだった
ーその会場で冊子を初めて手にとって読んでもらったと思うんですが、率直な感想はいかがでした?
最初イメージしたのはもっと文章が全面に出てくるような本になるのかと思っていたんです。でも実際の冊子は、写真もきれいで。みんな違った作家さんから出てきた作品なんだけど、一冊の本としてまとまった時のタビノコトバとしてのイメージがきちんとあるんですよね。
パっとみたイメージは映画のパンフレットみたいだった。
「タビノコトバ」という映画のタイトルの中で、一つひとつのエッセイや写真がそれぞれちがった場面を表しているような、そういうイメージで本を見て、あ、わたしのところのシーンはこういう感じなんだなとか思ったりしましたね。
ーすごく素敵な表現ですね。この本は1つの物語があって、その中に茂木さんの話があって、手紙があって、いろいろな写真やエッセイがあって、物語の中で1つの統一性が出せればいいなと思っていて、今の茂木さんの話はまさにそういうことなのかなと思いますね。
茂木さんの作品の1つ「Message」を公開
ワシントンからニューヨークに向かう列車の車内を、大晦日の興奮と真夜中の疲労が満たしていた。
かなり酔っているらしい数人の若い男たちが、通路の向かい側でどんちゃん騒ぎし、迷惑そうな周りの乗客に陽気な大声で話しかける。
地球上のどこでもないと思えてくるほど何もない暗闇の真ん中、確かフィラデルフィアとトレントンの間あたりで、列車はまた停車した。
凍てつく雪嵐の中、列車はその晩すでに何度も停車を余儀なくされている。
このままだと新年は列車の中で迎えることになりそうだ。数人の乗客がイライラした様子で歩き回り始めた時、私の真後ろの席の赤ちゃんが泣き出した。
その泣き声は金属音のように私たちの耳の奥まで入り込み、時折遠ざかっていくこだまのように弱まるかと思えば、また金属音となって耳の奥に帰ってくる。
どんちゃん騒ぎはますます大きくなる。
他の乗客は、列車の停止やどんちゃん騒ぎさえも、まるで泣き続けるこの赤ちゃんと日本語で必死にあやす若い母親に全責任があるかのように、鋭い苛立ちの目を向ける。
赤ちゃんの父親までも、母親に文句を言っている。
列車が再び動き出す。
ようやく駅に近づくと、赤ちゃんの父親が自分のバッグだけを持って降り口に向かった。
物音がして振り向くと、紅い顔をした母親が赤ちゃんを腕に抱き、大きなベビーバッグと彼女自身のバッグを肩に掛け、折りたたみのベビーカーを引いて夫に続こうとしている。
見かねて私が日本語で話しかけようとした時、どんちゃん騒ぎをしていた男たちのうちの一人が、驚くべき機敏さで彼女に近づき、ベビーカーを彼女の手から優しく引き取った。
そして車両のドアをさっと開け、まるでお姫様でも通すかのようにドラマチックにドアの方へ「どうぞ」とばかりに手を差し伸べると、顔だけを赤ちゃんに向け、突然ニッと白い歯を見せておかしな顔をした。
母親は一瞬怯えたような表情をして、うつむき加減に言った。
「サンキュー。」
それから思い直したように今度はまっすぐ男を見て、日本語のアクセントがはっきりと聞き取れるくらいの声で、「サンキュー、ベリー、マッチ。」ともう一度言った。
どんちゃん男は無邪気に微笑むと、彼女のアクセントを真似て、ゆっくりと楽しそうに言った。
「ユー、アー、ウェルカム!」
それは「どういたしまして」の意味だったのだろう。
でも私にはその「ユー、アー、ウェルカム!」が、「君たちはこの世界に歓迎(ウェルカム)されているんだよ。」
という温かいメッセージに聞こえた気がした。
(後編に続く)
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現在、第2回タビノコトバを募集しています。
締切は2018年7月25日までです。要項はコチラから確認してください。
茂木さんの作品が掲載された第1回タビノコトバの冊子は、こちらから購入できます。
また、他の作品は過去の作品ページからも見られます。
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