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第1回タビノコトバ掲載作家インタビュー 茂木麻予さん(後編)
第1回タビノコトバに掲載された作家にインタビューし、旅を文章にすることについて語ってもらう企画の第1弾。
〈前編〉に引き続き、今回はその後編になります。
最初の作家さんは「Message」と「One percent」の2つの作品が掲載された茂木麻予さん。
ニューヨーク在住の茂木さんは、タビノコトバ展を見るために来日し、イベントに参加してくれた。
どうして旅を文章にするのか、ニューヨーク在住の茂木さんが展示会に足を運んだ理由、タビノコトバについて話を伺った。
英語で書くときは自由に書けるっていうおもしろさがありますね
ー茂木さんがあの文章を書いてから一年半が経ったんですが、書くことについての近況はいかがですか?
日本語でも、英語でも文章を書いています。ニューヨークの文学雑誌に作品を送って、採用されました。エッセイだけではなくて、アートとか写真とかも載せている雑誌に文章が載ることになりました。
ーすごいですね!おめでとうございます。ちなみに日本語と英語で文章の書き手として違いってあるんですか?
異なる言語で書くと考え方も変わりますね。日本語で書くときって書くのは易しいんですが、日本の文化とか育った環境とかに自分が縛られてる感じがするんですね。
英語で書くときは辞書も使うし時間が何倍もかかりますが、不思議とそういう縛りを感じなくて、どういう風に思われるかとかを考えずに自由に書けるっていうおもしろさがありますね。自分で人格が変わる感じがします(笑)
ー自分の言語じゃないと感覚や思考も変わる。おもしろいですね!
ふふふ
旅をしている時は新しい情報を受け入れるのに精一杯。書くことで、振り返る。
ー第2回タビノコトバを開催するのですが、これから書く人に対して応募することのオススメや、書くことで得られることがあれば聞かせてください
旅をしている時は新しい経験や風景に出会い続けていて、新しい情報を受け入れるのに精一杯で、その旅の中で深く感じ入るのは割と難しいのではないかと思う。その時の刺激を追いかけることにいっぱいというか。
私もそうだったんですけど、書くことによってもう一回振り返られると思う。
振り返った中で「あれは楽しかった」で終わらず、「よくわからないけれどなぜか印象に残ってる」「なにが印象に残ってるんだろう」ということをもう一回よく考えて、感じてみることができる。
自分の机に向かって心が落ち着いている状態で、残っているものをよく凝視する。そういう作業ができるから、書くことはオススメですね。
ー旅中ってそこまで深くは考えないけれど、いろいろな出来事や引っかかりを振り返って表現できたらそれは素敵なことですよね。作家さんと企画者の親和性がとてもあると感じます。
多分、人によってその引っかかりの場所も全然違ったりすると思う。同じ場所に行って同じものを見てても、感動する場所とか印象に残っている場所ってちがうと思う。それを表現することって、自分を表現することだから、やっぱり好きですね。
書くことや表現していくことへの未来
ー物を書くことや表現していくことに関してのご自身の未来について、なにか展望はありますか?
旅に関して言えば、もうずっと生活していることが旅だと思う。旅って自分が普段いる場所から引き離して、いい意味で自分を打ちのめすというか、殻を破って足りないところを痛感して、恥をかいて、自分を成長させていくようなことだと思う。
だから新しいことを経験することも旅だろうし、新しく出会う人と話すのも旅なのかなと。いろいろなことを旅のように捉えて、それを恐れて自分の楽な場所にただいるんじゃなくて、もっと外に出て行って自分を成長させるような、そんな毎日の旅をしていきたい。
いろいろな経験をして、その経験を時々自分で振り返って、なにか感じたことがあれば文章にしていきたいなと思う。
ありがとうございます。僕らの企画への思いとこんなにリンクしてるのは、本当に嬉しいです。
第1回タビノコトバの作家である茂木麻予さんのインタビューでした。
茂木さんの作品の1つ「One percent」を公開
短期間だけ、父の知り合いが社長を務める会社で働いたことがあった。
入社して3日目、いきなり社長から、
「来週ハルビンに行くから。」
と言われ、入社の10日後には、中国北部ロシア国境に近い、黒竜江省ハルビン市郊外のオフィスで凍てつく黒土地帯を見渡していた。
それから1回につき1週間ほどのハルビン出張が頻繁に続き、結局その会社で働いたほぼ半分の日数をそこで過ごすことになった。
ハルビンの冬は気温が氷点下20度前後まで下がり、工業地区にある会社の周りでは、肥沃な黒土が開発による瓦礫やごみを含んで盛られ、凍りついていた。
オフィスには暖房はあるが、建物全体が氷のように冷えているので、分厚いコートを着たまま仕事をしなければならない。
日本人は昔気質の超強引ワンマン社長と、その秘書兼荷物持ちである私の二人だけ。
極寒の地の厳しさと心細さ、朝から晩まで社長に振り回される腹立ちで、最初の頃は毎晩泣きながら、明日こそ辞めて日本に帰ってやる、と誓っていた。
それでも、会社で働くハルビンの人たちとの片言の中国語と身振り手振りでのやりとりは、数少ない楽しみのひとつだった。
そのうち、ひとりの事務職員の女性と特に親しくなった。
私が寒そうにしていると、彼女はよくコップに入れたお湯をくれた。
そのお湯を飲むと、彼女の素朴な優しさが、お湯とともに凍える体に温かく沁み渡った。
理不尽な理由で彼女が社長に怒鳴られた時、私が彼女をかばって社長にたてついたこともあった。
彼女の方も婚約者と一緒に、私をこっそりとハルビン市内のレストランやショッピングモールに連れ出してくれた。
社長の目を盗み、まるでスパイ映画さながらのホテル脱出劇に成功し、迎えに来た婚約者のおんぼろトラックの中で、三人で大笑いした。
結婚したらぜひ家に遊びに来て欲しい、私たちには飛行機代が高すぎて、日本に行くことはできないから。
そう言っていた。
彼女は貧しい村の出身で、バスで毎朝片道2時間半、往復5時間かけて通勤していた。
あれから事情があって突然会社を辞めることになり、連絡も取れないまま彼らとはそれきり会えなくなってしまった。
彼らならきっと、今は幸せな家庭を作っていることだろう。
もう二度と、ハルビンを訪れることはないかもしれない。
旅の始まりは不本意ですらあった。でも不思議なことに、あれだけ辛く厳しかった99%の時間ではなく、彼らとの出会いという残りの1%によって、あの旅は私にとって、生涯忘れられない特別な旅となったのだ。
(前編はコチラ)
現在、第2回タビノコトバを募集しています。
締切は2018年7月25日までです。要項はコチラから確認してください。
茂木さんの作品が掲載された第1回タビノコトバの冊子は、こちらから購入できます。
また、他の作品は過去の作品ページからも見られます。
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