【作家インタビュー②】山崎陽が語るタビノコトバ

第1回タビノコトバ掲載作家のインタビュー② 山崎陽さん

第1回タビノコトバに掲載された作家にインタビューし、旅を文章にすることについて語ってもらう企画の第2弾。
飛行機の中で偶然出会ったブータン人への感謝の気持ちを伝えたくて書いたという山崎さん。
文字にすることへの思い、書くことの楽しみについて話を伺った。

 

自分が大人になって変わっていったとしても、読むことでその時の気持ちが蘇る

ー今日はよろしくお願いします。山崎さんは当時大学生でしたね。どうしてタビノコトバに応募しようと思ったんですか?

もともと文章を書くことが好きで、いろいろな公募に応募していました。そんな時にタビノコトバの公募を見て、旅が好きで文章を書くことが好きだったので応募しました。
言葉にすることでその時の気持ちが残るじゃないですか。自分が大人になって、自分が変わっていったとしても、それを読めばその時の気持ちが蘇るんですよね。だから、文章にすることが好きでよく書いています。

ーどうして飛行機の中でブータンの人に出会った話を選んだんですか?

ブータンの人に伝わればいいなと思って書きました。その出会いがあった時にきちんと「ありがとう」と言えなかったことが心に引っかかっていて。この出来事を完結させるために、自分なりのけじめみたいな気持ちはあるのかもしれないですね。

ーその出来事が引っかかっていたのにはなにか理由があるんですか?

相手にとってはさりげない親切心だと思うんですが、私にとっては旅の始まりに起こった出来事で。そういう出来事があると、旅がいい思い出になるじゃないですか。旅の始まりからプラスの感情をくれた人だったので、すごく印象に残っていますね。

タビノコトバの作品letter

その人との出会いも旅好きになるきっかけの1つだったのかもしれない

ーでは実際に文字に起こしてみて、なにか心境の変化みたいなものはありましたか?

その人との出会いも旅好きになるきっかけの1つだったのかなと思い返していますね。今でも鮮明に顔を覚えていますもん。もう会わないだろうけど。

ーそういう出会いって記憶に残り続けますよね。文章の形はエッセイでも旅行記でもなんでもいいよっていう中で、手紙の形式にしたのはなにか理由はあるんですか?

その人を想って書いた文章なので、実際にはその人に届くことはないけれど、届くといいなって気持ちが前提にあったので、手紙にしました。

書くことの楽しみと理由

ー書いてる時の苦労とか、楽しみってありましたか?

苦労はなかったですね。楽しくて仕方なかったです。
深夜2時くらいにマウントレーニアのコーヒーを飲んでからパソコンを開いて、しっとりとした音楽を流しながらちょっとノスタルジックな雰囲気を作って、懐かしみながら書くのが好きなんですよね。今回に限らず文章を書くときは、いつもこうやって書くんですよね。笑

ー夜に一気に書いて、朝は見返したりするんですか?

見返さないですね。そこが多分最高潮の気持ちなので。

ー採用が決まったときは?

びっくりしました。選ばれるために書いていた文章じゃなかったので、驚きましたね。

ー自分のために書いた文章?

多くの人に読んでもらいたいとかではなく、本当に日記の延長のように自分のために書いた文章なので、まさか選ばれるとは思ってなかったし、選ばれたいと思っていい文章を書こうと思ったわけではなかったですね。素の文章をそのままぶつけました。

飛行機の機内から

昔の人が和歌を読んでいた感覚と似ているのかもしれない。

ー書くという作業は山崎さんにとってよく行うことなんですか?

よくあることで、書く時はいつも手書きなんです。私の場合は手書きをすると、記憶の保存になるんですね。
多分、昔の人が和歌を読んでいるのと一緒なのかなと。昔の人たちって事あるごとに俳句とかを作っていたじゃないですか。月がきれいだな、みたいな。多分それと似てるんじゃないかと思っています。

ーああ、それは素敵な表現ですね。
わたしは、過去を振り返るタイプなんです。だから、そういう書く作業がないとあっさりと前に進めないんですね。
この話は関係があるかわからないんですけど、19歳の女友だちと話していた中で気づいた自分と他者の違いがあって。
彼女はすごく潔いんですね。生き方とか考え方とか。それを本に例えるなら、彼女は中学時代・高校時代・大学時代とそれぞれ本が1巻ずつ別れてあるんですね。

ーふむふむ。

でもわたしは中学時代・高校時代とそれぞれが1章ずつて別れているだけで、同じ本の中で保存されているんですね。だから、記憶と時間が繋がっているからすぐに戻れちゃうんですよ。
そういう性格だから、落ち込んだ時とかに当時の自分が書いた文章を読むと、前に進まなきゃって思えるきっかけになるんですね。
小さな感情とかも含めて、なにか前に進むきっかけになってくれるんじゃないかっていう気持ちで文章を書いていますね。

書くことは、記憶の保存に繋がる。

ー展示会に来てくれたきっかけってありますか?

自分と同じ感覚の人たちと出会える場に飛び込んだら世界が広がるんじゃないかっていう期待ですね。旅が好きで文章が好きな人が集まるってのはわかっていたので。

ー実際に来てみてどうでした?

楽しかったですね。人によってこんな感性が違うんだと。私だったら素通りするような出来事を、その人はそこに気づいて、それを言葉にできるっていう感受性の違いを見られて、おもしろいなと思いました。そこでいろいろなピースが集まって、パズルが完成したみたいな楽しさがありましたね。

ーこれから第2回に応募しようと思う人に対してメッセージはありますか?

自分が書いてもいいかなって素材があって、書くか書かないかを迷った文章があったら書くべきだと思う。どんな文章でも。

ーそれは、どうしてですか?

書くことによって言葉になった自分の気持ちを客観視できるきっかけになるんです。記憶の保存、思い出の再確認になる

ー記憶の保存。いい言葉ですね。

ありがとうございます。

ー書いてから一年半が経ったんですが、書くことに対する近況とか未来とかそういう展望みたいのってありますか?

自分のためにと思って書いた取り繕っていない文章が選ばれたことで、自分の感情をそのまま言葉に書くことに抵抗がなくなって、友達に手紙が書く回数が増えました。友達に対して、ちょっと書いてきたみたいって毎回遊ぶ時に手紙を渡すことをしていますね。

ーそれは素敵ですね。

今日、書いてきましたよ、ソーゲンさんに。

ーえ?

どうぞ!

アンパンマンのメッセージカード

紙媒体がいいんですよね。紙って読み返すほどシワシワになっていくじゃないですか。本にしても、自分が書いた文章にしても、日記にしても。そこになんか年季が入るのがとてもいいなと思っています。

ー本当にありがとうございました。タビノコトバはこれからも紙媒体で作品を作っていきますね。

山崎さんの作品【Letter】

山崎陽さんの作品letter

前略  名前も知らない貴方へ。

私が人生で初めて飛行機に乗ったのは17歳、アメリカへ行く便でした。
飛行機の勝手が全く分からず手荷物を持ったままあたふたしていた私に、
「僕の上、まだスペースあるよ。」そう言って私の手荷物を収納し、そっと手を差し伸べてくれたのが貴方でした。

早口の英語に耳が慣れず、貴方の言ったことはほとんど分からなかったけれど、
貴方の優しさで、よれよれになるまで搭乗券を握りしめていた手の力が、抜けたような気がしました。
通路を挟んで隣に座っていた貴方は、飛行機がアメリカに着くまでずっと私のことを気にかけて、
小さな小さな親切心をいくつも私にくれました。

13時間のフライトを終え飛行機がアメリカに到着し、私は精一杯の勇気を振り絞って、
上手く伝えられない言葉の代わりに“ありがとう”の一心で、日本から持ってきた和紙の栞を貴方に差し出しました。
貴方はそれを受け取って私にあるものをくれましたね。

「ブータンでは、自分の持ち物につけていたお守りを他生の縁の証に渡す習慣がある」と微笑みながら。

名前も知らない貴方について私が唯一知っていることは、
貴方がブータン出身で、そしてこれが最初で最後の出会いだということ。

今日も貴方は旅に出て、誰かに優しさを届けているのでしょうか。
“SPECIAL FORCES”そう刻まれたあなたのお守りを握りしめ、私は空を見上げます。

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現在、第2回タビノコトバを募集しています。
締切は2018年7月25日までです。要項はコチラから確認してください。
タビノコトバ募集ポスター

山崎さんの作品が掲載された第1回タビノコトバの冊子は、こちらから購入できます。
また、他の作品は過去の作品ページからも見られます。

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